山口英文がデザイナーとして参加している「仏具のデザイン研究所」の研究活動が更新されました。
以下、研究活動の記事から山口英文へのインタビューの抜粋です。
【山口英文 デザイナー】
―どのような思いで、インテリアライフスタイルに臨みましたか?―
今回、私が出展した「Kasanari(かさなり)」という仏具は、正統派の仏具ということを意識してデザインしたものです。仏壇仏具には過去からの積み重ねられてきた文化がありますので、それをリスペクトしたうえで、そこに今までにはない斬新さを加えたつもりです。
正統派でありながら、Kasanari(かさなり)のような存在感を持った仏具は今までになかったと思います。各具足の過去からの基本ルールは壊さずに、けれど、それが放っている存在感は新しさをまとっていると考えます。
それを来場者にどれくらい新鮮に受けとってもらえるか、というところに一番興味がありました。
奇抜なものを作れば、見る人が驚いてくれたりするので分かりやすいですが、正統派のものは、合によっては地味に見えたり、興味を惹かない可能性もあります。そこのリスクは考えましたが、それでもやはり奇抜さに走るのではなく、きちんと仏具におさまる正統派の仏具にこだわりました。それが私のインテリアライフスタイルに臨む意気込みだったということになります。
―実際にインテリアライフスタイルに出展してどう思いましたか?―
「商品としてきちんと流通しそうだ」という反応が多かったと聞きまし たので、まずは、ほっとしました。もう一方で、「すごくモダンですね」とか「新しいですね」という意見もいただいたので、正統派に傾いたために見逃されてしまうのではないか、という懸念も払拭されました。
何人かの来場者と直接、話をさせていただき、「伝統を守って従来の作 法をキープしつつ、新しさが出ているという」反応をいただいたことは、 すごく自信になりました。
塗装や研磨にはかなり苦労して「Kasanari(かさなり)」の質感を作り出しましたが、その説明をすると、「だから、こういう美しいラインが出ているんだ」とか、「それで、こういう美しい仏具になっているんだ」という感想をいただけましたので、それは本当にありがたいことだと思っています。
―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―
正統派にはパワーがあるということを今回は改めて思い知りました。伝統には型があり、仏壇に入れるというのも一つの型です。その型のルールを守りながら、その中で新しさを出すということは、取り組みがいのあるテーマだと思います。
仏具を作って、それを仏壇に入れると、とたんに表情が変わるというか、 新鮮さが増す瞬間があります。そういった経験から、仏壇の中におさめるという窮屈さの制約の中で新しいものをデザインすることが、すごく面白いと分かりました。
これからも、伝統や型に敬意を払うという姿勢は変えずに、しかし素材や手法は変幻自在に変えながら色々なトライをしていきたいと思っています。今は、あれもやりたい、これもやりたいという考えが次からつぎに出てきている状態です。
仏具をデザインするうえで一番大事なことは、仏壇仏具と人との関係、仏壇仏具に向かう人の気持ちを考えることだと思います。
私は普段、工業デザインをやっていて、情報機器のインターフェイスにも関わっています。仏具とはまったく違う世界だと思われるかもしれませんが、実は非常に近いものです。
スマートフォンのようなハイテク製品も、インターフェイスを考えずに、効率的だからという理由で、どんどんハイスペックにしても誰もついてきません。
製品と人間の接し方というものは誰かが勝手に変えられるものではないのです。
仏壇仏具と人間が向かい合うことも、ある種のインターフェイスです。デザイナーが勝手に奇抜な形を作っても、一瞬は目を惹くかもしれませんが、すぐに消えてなくなると思います。つまり、普段やっているハイテクの仕事と、仏具の仕事は人間と向かい合う関係性という意味では、ほとんど同じということになり、それはとてもおもしろいことだと思っています。これからも、仏壇仏具に向かう人の気持ちを考えながら仏具をデザインしていきたいと考えています。
デザイン事務所 : 株式会社Caro
『vol.2 インテリアライフスタイル展』
■記事ページ
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